土地に根ざし、生き方・暮らし方をデザインする

私たちは、モノをつくり販売していますが、実は生き方・暮らし方をデザインし、提案したいと考えています。それは、多くの日本人が経済的な成長の過程で優先順位を下げてしまった価値観に改めて光を当て、見直すようなことと考えています。

「石見銀山 群言堂」はブランド名ですが、社名は「株式会社石見銀山生活文化研究所」といい、世界遺産・石見銀山(いわみぎんざん)のある島根県大田市大森町という山の谷間にある小さな町に本社を構えています。

石見銀山生活文化研究所 鄙舎(ひなや)

「群言堂」の由来は、私たち仲間が集まってお酒を飲みながら、美味しいものを食べ、語り合っている様子を見たある留学生が、“中国では、こうしてみんなが目線を一緒にして意見を出し合いながら、いい流れをつくっていくことを“群言堂”という”と教えてくれたことがきっかけです。これこそ私たちに相応しい言葉と思い、ブランド名にしました。

私たちは、日本の暮らしの中で受け継がれてきた伝統的なものづくりの精神や技術を生かしながら、現代のライフスタイルに合ったものをつくる「復古創新」の考えのもと、素材にこだわったオリジナルウエアをはじめ、暮らしに関わるさまざまなアイテムを提案しています。一方、古民家を改修した宿の経営など、この地でしかできないものづくり・ことづくりにも取り組み、土地に根ざした「衣・食・住・美」のあり方を追求しています。

群言堂のものづくり

私たちのものづくりは国内の素材を使い、少量生産・国内縫製を大切にしています。古くからの技法を多く採用しており、大正時代に新潟で開発された「マンガン絣」も、その一つです。
マンガン絣

新潟県見附市にたった一つ残る工場で熟練した職人が手がける希少な染色技法ですが、天候や温度の加減で、微妙に柄の仕上がりに変化が出ます。私たちは、このマンガン絣を20年以上、採用していますが、こうした古いものは残していかなければ、その技術も職人も失われてしまいます。

今の時代は経済優先で海外生産が主流となり、環境汚染や人権を無視した労働環境が問題になっていますが、私たちはずっとSDGsのビジョンにも通じる、持続可能なものづくりに取り組んできました。

お客様からよく“素材の群言堂”といわれますが、私たちは素材こそが大事と考え、生地はオリジナルのものを使っています。手間もコストもかかる生地を織り上げ、それからプリントを載せたり、刺繍を入れたりして仕上げます。

はぎはぎブランケットストール

ワンピースやコート、スカートなどを作るときに生まれる“はぎれ”をつなぎ合わせてつくったポケット付きの「はぎはぎブランケットストール」は、手をかけてつくった生地を最後まで使い切りたいという想いから生まれたもので、流山おおたかの森S・C店でも人気のアイテムです。

中国の言葉に「草根木皮(漢方)、これ小薬なり。鍼灸、これ中薬なり。飲食衣服、これ大薬なり」とあるように、衣服は、皮膚感覚で最も敏感に健康に影響する大事なものです。私たちの服づくりのテーマは、「見て楽、着て楽、心が元気」。お客様に長く愛着を持って着ていただけるものを心がけています。

紙袋にも、想いとこだわりを

お買い上げいただいた商品を入れる紙袋についても、以前は上質な紙を使っていました。でも、そこにコストをかける時代ではないと考え、紙袋自体は安価なものにし、その代わり、隣町の福祉施設の方たちにお願いして、当社でデザインした包装紙を手で千切り、1枚ずつ紙袋に貼りつけてもらっています。そうすることで、二つとして同じものがない個性的な袋になります。

群言堂の紙袋

包装紙も、スタッフが芋版で作った「水の華」と愛称をつけた海の植物プランクトンをデザインしました。

「水の華」は海の食物連鎖の原点にいる小さな微生物で、5,000種類もいるといわれていますが、こうした生き物たちが人間の欲望の犠牲となり、地上でも絶滅危惧種がどんどん増えています。

私たちは、こうした小さな生き物や弱いものが生き残れる社会こそが理想であるということをデザインに込めており、包装紙や紙袋を通じて、お客様にも何かしら感じ取っていただければと考えています。

未来を犠牲にしない

今の時代の現状を見れば、私たち大人が築いてきた社会が、これからの未来を生きる子供たちにとって、いかに酷いことをしてきたか、もはや誰もが気づいていると思います。

今のために未来を犠牲にするというのは、もう止めなければなりません。昔の暮らしは、とてもシンプルでした。今は社会が複雑になりすぎて、その複雑さに疲れているという本末転倒な状態で、地方の小さなまちに暮らしていると、そのことがクリアに見えてきます。

私たちはアパレルでも雑貨業でもなく、こうした土地に根ざした生き方そのものが世界標準になるようなライフスタイルをデザインし、人々が幸せに生きていけるような、環境や地域のコミュニティも含めた暮らしやすい理想郷づくりをめざしていきたいと考えています。




株式会社石見銀山生活文化研究所 代表取締役所長/群言堂デザイナー
松場 登美さん

1981年、夫である松場大吉氏の故郷、島根県大田市大森町に帰郷、居を構え、布小物の製造・販売を手がける。1989年、雑貨ブランドを立ち上げ、築170年の古民家を修復して店舗とし、1998年、株式会社石見銀山生活文化研究所を設立。群言堂ブランドを立ち上げ、アパレル事業とともに、古民家再生に取り組み、築232年の武家屋敷を改修、2008年からは「暮らす宿 他郷阿部家」を営む。総務省の2020年度「ふるさとづくり大賞」(※)の最優秀賞(内閣総理大臣賞)を受賞。
※全国各地で、それぞれの地域の“ふるさと”をよりよくするために頑張る団体や個人を表彰する賞。1983(昭和58)年度に創設され、今年度で38回目。

まちづくりと密接に関わる、群言堂のものづくり

松場/私たちの事業は、この土地、このまちならでは、の存在と考えています。石見銀山は「重要伝統的建造物群保存地区」に指定され、世界遺産にもなりましたが、鉱山遺跡とその周辺の自然環境を含む文化的景観に対する評価なので、考えようによっては、近代化に乗り遅れたからこそ、自然との共生やまち並みの保存が可能だったともいえます。

発展や開発が悪いわけではなく、開発のあり方を“今現在”だけではなく、未来から見据え、何を残すかという視点を大切にすべきだと思います。私自身としては、この地の暮らしにこそ、これからの社会のあり方のヒントがあって、そのことが認められたことも含めて世界遺産に登録いただいたのだと受け取っています。日本の伝統的なライフスタイルはSDGs的な要素に溢れており、地域との関係性やつながりの中で、それらを大事にしてきたことがいちばん大きいと思います。

大森町の町並み

「ふるさとづくり大賞」の受賞について

松場/服飾ブランドを通じて、地域の風土や文化を守る暮らしを発信してきましたが、流行とは縁遠い片田舎だからこそ、独自性のあるものを創り出すことができたのではないかと思います。

地域の価値をベースにしたビジネスを持続可能な形で、魅力的なライフスタイルとして発信し続けていることも評価いただいたようですが、ただ自分が当たり前のこととして長年、コツコツと続けてきたことが、こうして多くの方に受け入れていただいていると思うととても嬉しいです。


石見銀山 群言堂 流山おおたかの森S・C店
流山おおたかの森S・C 1F

世界遺産・石見銀山のある島根県大田市大森町に本店を構える「石見銀山 群言堂」は、日本の伝統的な技術を活かしたものづくりを、現代のライフスタイルに合わせて生かす「復古創新」をテーマに「衣・食・住・美」に関わるこだわりの商品を提案しています。
https://www.gungendo.co.jp/