“子ども食堂からその先へ”をテーマに、企業や家庭から寄付・寄贈された食品などを、子ども食堂を介して地域の必要とする家庭に届ける活動を行う、「とうかつ草の根フードバンク」。
その活動を紹介するパネル展示と、食材の寄付を募る「フードドライブ」が、流山おおたかの森S・C FLAPSの1Fイベントスペースで開催されました。本イベントに併せて、公開インタビューを実施し、お話を伺いました。
左から、副代表/西尾 だんさん、代表/梅澤 一雄さん、副代表/有馬 房江さん、

子ども食堂のネットワークから生まれたフードバンク

―本日は、千葉県東葛地域6市の子ども食堂の協力によって設立された「とうかつ草の根フードバンク」の皆様をお招きし、具体的な活動内容などについてお話を伺いたいと思います。

梅澤 : 東葛地区6市(松戸・柏・野田・流山・鎌ヶ谷・我孫子)には、それぞれ子ども食堂があり、さまざまなかたちで食品や食材、物品の提供を受けています。食品などが余っていれば、足りないところにまわすなど、融通し合っていましたが、それぞれ人手が足りない、手間が大変、保管場所がないといった悩みを抱えていました。ストックしておけるスペースがあれば、いつでも必要な時に個別支援ができるし、緊急支援にも対応できます。フードバンクは、そういう場所として活動を行っています。
とうかつ草の根フードバンクの物品や情報の流れ(パンフレットより)

西尾 : 子ども食堂間の交流は、3年程前からありましたが、貯蔵場所がないので、提供していただくそばから運んで配るということを繰り返していました。梅澤代表のお宅が代々農家をされていて、空いている納屋があるから、そこを改装して一時貯蔵の倉庫にしてはどうか、とのご提案をいただき、スタートしたというのが発足経緯です。

有馬 : 私たちが運営する「子ども食堂」は、子供たちの第3の居場所、つまり自宅と学校以外に、穏やかに過ごせる場所を提供するのが主目的です。貧困家庭の子供たちの支援に特化しているわけではありませんが、日頃、子供たちと関わる中で、その子の家庭の事情が見えてくる。そこで話を聞いていくと、大変な状況がわかってきて、そういう支援を必要とする家庭が増えていくうちに、1つの子ども食堂だけでは、どうにも支えきれなくなりました。どういう形で支援すればいいのかを考える中で、子ども食堂のネットワークを通じて、食品・食材を集められないかと思いついたのです。でも、集めるなら、一時的に保管する場所が必要で、梅澤さんにご相談したところ、ご快諾いただき、地域のネットワークに声をかけて、そこを60以上の子ども食堂のベース基地としました。設立メンバーは6名で、ボランティアを募りながら、今はトータル20名程のスタッフで、集まった食材を各地区の子ども食堂に配布し、そこから、その先の家庭へ届けるというかたちで活動を続けています。

何が求められているのか

西尾 : 全国にたくさんのフードバンクがありますが、企業や団体からの寄付を貯めておいて、支援依頼が来た時に宅急便で送るというのが一般的です。しかし、この方法では年間予算の大部分が配送料を占めて、大きな負担となってしまうケースが少なくありません。なので、私たちの場合は、子ども食堂のメンバーが配達することで配送料ゼロを目指しています。食品や食料をご提供いただく際も、なるべく相手側の負担をなくすため、受け取りに伺います。フードバンクの倉庫には地区ごとの棚を設け、そこに分けて納めるところまでが私たちの仕事。その後は、各地区の子ども食堂に連絡して取りに来ていただきます。常駐スタッフがいないので、予約を受けて、モノが入る時、あるいは受け取りの時だけ、スタッフが集まって配るかたちで運営しています。

梅澤 : 食品の種類が多岐にわたり、賞味期限もあるので、それを整理するのが大変です。いただいたものは絶対に捨てないのがポリシーなので、賞味期限順に整理し、食材は小分けにして棚に置く。なかには使い方のわからないものや一般家庭では使いにくいものもあるので、その仕分けに手間取ります。

有馬 : レトルト食品やカップヌードルなどは、緊急支援に欠かせないもので、缶詰類、マヨネーズなど、一般家庭で使うものであれば、使い方を説明せずに渡すことができます。

西尾 : 家庭によって事情がさまざまで、困窮家庭だと、電気が止まっている場合もあります。お米を渡しても炊飯器が使えない、電子レンジもないとなると、缶詰なら、そのまま食べられるし、炊いた状態のレトルトご飯も、すぐに食べられます。逆にパスタなどは、家庭の事情により、調理方法を知らないケースもあり、渡す際は気を遣います。

今、起きていること

有馬 : コロナ禍でご主人が失業し、赤ちゃんを抱えて、今日・明日の食べ物がない、おむつもない、というSOSの電話が来るので、とにかく支援できるものをすぐに届けます。“命が助かりました”という言葉をいただくと、本当に良かったと思います。すぐ食べられるものをその日に手渡しで届けるのが、私たちの基本です。だから、その場で感謝の言葉をいただくと、心からよかったと思います。

梅澤 : 家庭の状況がわからないと、どういうものが必要なのか検討がつかないので、要望を聞いてすぐに届けます。他の地区から連絡が来た時は、ネットワークを通じてフォローしてもらう。コロナ禍の支援として、給付金一律10万円が支給されましたが、ある80代のご夫婦から「年金暮らしですが、大してお金を必要としていないので、どうぞお使いください」という手紙と10万円が送られてきたことがあります。こういう支援をいただくと、感謝の気持ちと同時に頑張らねばと思います。

西尾 : 私たちは子ども食堂が母体なので、子どもたちにしっかり届けたいという想いで活動しています。家庭によっては、お父さん、お母さんにもう少し頑張ってほしいと思うことも正直あります。でも、そこで支援を止めてしまえば、子どもたちが困ってしまう。私たちの立場で解決できるものではないし、そこは行政などに支援していただくよう担当者としっかりつなぎ、私たちはとにかく子供たちに食べ物を届ける、そこを担います。

有馬 : 私たちの役割は、あくまで“絆創膏”であって、とりあえず応急処置をすることしかできません。今困っていることがあるなら、そこに手を差し伸べる。根本的な対処は行政の役割であり、自らの家庭を立て直すのは親の役割です。でも、今この瞬間にお腹を空かせた子供がいるなら、何かを食べさせなければならないし、飢えさせてはいけない、その使命感で活動しています。

手渡しする意味

西尾 : コロナ禍は大きな転機だったと思います。私たちは、2019年の秋にプレオープンし、2020年4月から本格スタートする準備をしていたところ、コロナが拡がり始め、学校が休校になりました。昼間働きに出ていたお母さんが子供の昼食を作らなければならない、保育園や幼稚園にお迎えに行かなければならないということで、仕事を辞めざるを得なくなった。その頃、飛行機が飛ばなくなり、旅館やホテルも営業できず、そういうところから食材の寄付が大量に届きました。オリンピックも延期され、関連のお菓子製品をご寄付いただくなど、一気にトン単位の物資が集まり、倉庫がいっぱいになりました。そうこうするうちに、今日食べるものにも困った人たちが助けを求めて来るようになったのです。


有馬 : コロナ禍で子ども食堂が開けなくなったため、食材を配る「フードパントリー」を開催し、お米を1kgずつに分け、お菓子やレトルト食品などと一緒にして配りました。その時、来た方に状況を伺い、「ご登録いただければ、次回開催時にお知らせします」と、個別に連絡が取れるようにしました。そのあたりから、子ども食堂としてのフェーズが変わったような気がします。

西尾 : 相談窓口を設けて、行政の担当者とつなげるような取り組みも行いました。

有馬 : 食材を渡すのはきっかけで、それで心を開いてもらえれば、相談しやすい関係になります。助けてほしいという言葉をためらうことなく言えるようになり、すがるところがなかった人たちが相談してくれるようになるのです。この1年で、そういうつながりが徐々に深くなり、市などの行政とつなげる活動もしてきました。「助けて」という言葉を言いやすい環境をいかにつくるか、そのことをフードバンクの活動を通じてやってきたように思います。

フードバンクの意義

―コロナ禍は、誰もが支援を必要とする立場になるかもしれないという意味で、セイフティーネットの重要性に対する意識が高まったように思います。

有馬 : コロナ禍の影響で、いつ誰がどうなるかわからなくなりました。支えていた側から支えられる側になるかもしれない、そういう状況がますます強くなっています。そうなった時に、こういう活動があって、いつでも手を差し伸べられるということを知ってほしい。どんな状況になっても、私たちは困った人たちを孤立させないし、網の目のように、どこかで誰かに声をかければ、つながる。そのことを広めていくのが、私たちの役割と思っています。

西尾 : 遠慮される方がすごく多いんです。「私たちよりも困っている家庭があると思うから、その人たちに渡してください」「私たちのようなものが受け取っていいのですか」「こんなにたくさんいただいていいのかしら」そういって、遠慮してしまう。フードパントリーの時も、賞味期限切れの食品やすぐに着られなくなるような子供服などは、皆さん、気兼ねなく持ち帰るのですが、それ以外のものだと遠慮してしまう。もっと遠慮せずに必要なものを持っていってもらえるような工夫をすることも大切だと思います。

今後の活動について

有馬 : 松戸には45の小学校区があるので、小学生が歩いていける範囲に1つずつ子ども食堂がある状態をめざしています。そういった子ども食堂を運営する人たちを支えていくのも、フードバンクの役割と考えています。

西尾 : コロナ禍で、子ども食堂自体が開催できず、この1年間、全く活動していないグループもあります。まずは、そのバックアップをして、活動を途絶えないようにする。もう一つは、子ども食堂を始める時のバックアップ。最初は人が集まるのか、スタッフが集まるのか、お金がどの程度かかるのかなど、不安がいろいろあります。それを払拭するために、これまでの事例や各地域での活動状況などの情報を共有し、始めやすく・続けやすい体制づくりをサポートしていきたいと思います。

梅澤 : 私は、流山消防団を20数年やっていますが、流山には22分団あります。それぞれの建物にキッチンがあり、6〜10畳くらいの部屋もトイレもある。そこを子ども食堂やフードバンクの拠点として利用できないかと考えていて、各地の消防団を有効活用できるよう働きかけているところです。

有馬 : 貧困を解決することはできませんが、できるだけ飢えている子供がいないようにするのが、私たちの目標です。健康で清潔な暮らしが送れるよう、家庭に対して、どのように手を差し伸べられるか、何ができるかを常に考えながら、一つ一つ実行していきたいと思います。この1年で、TVでも取り上げていただき、フードバンクの活動が広く知られるようになりました。これから必要なのは、支援の手をちゃんとつなげていくこと。そこが大切と考えています。

西尾 : さまざまな方面にフードバンクの活動を知っていただき、いろいろな形でつないでいくことで活動の輪が広げていきたいと思います。

梅澤 : 今回のイベントのように、大勢の方が利用されるSCと連携させていただくことで、私たちフードバンクの取り組みを知っていただくきっかけが増えるのは、とてもありがたいことです。今後もこうした機会を増やし、支援と協力の輪を広げていければと思います。

―ありがとうございました。


お問い合わせ先
とうかつ草の根フードバンク事務局
090-2733-0555(高橋)
toukatsufb@gmail.com