#自然環境にやさしいまちづくり
FLAPS設計 MOUNT FUJI ARCHITECTS STUDIO
原田真宏さん・原田麻魚さんインタビュー
2021年3月31日、流山おおたかの森S・C の新館「FLAPS(フラップス)」が、グランドオープンを迎えました。
施設の設計・デザインを手がけたMOUNT FUJI ARCHITECTS STUDIO(マウントフジアーキテクツスタジオ)の原田真宏さん・原田麻魚さんに設計の意図、そこに託した想い、施設の今後に期待することなどについてお話を伺いました。
MOUNT FUJI ARCHITECTS STUDIO
原田真宏氏(写真:右)と原田麻魚氏(写真:左)が共同代表を務める設計事務所。
2004年、設立。建築デザインを中心に、都市計画から伝統技術を生かしたプロダクトデザインまで幅広い活動を展開。理念を具現化する「質」の高い建築には定評があり、2017年に日本建築大賞を受賞した「道の駅ましこ」をはじめ、そのほぼすべての作品が国内外で賞を受賞するなど、世界的に高い評価を受けている。
代表作/焼津の陶芸小屋「XXXX」、集合住宅「seto」、教育施設「知立の寺子屋」、「YOTSUBAKO」、立山の家「House toward Tateyama」他
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すべての生き物にとって、
気持ち良い場所として
建築がもたらす価値とは
―― 建築というのは、長いスパンで考えられているものだと思いますが、建築家として、長く使うということに関して、どのように捉えていらっしゃいますか。
真宏さん
ショッピングモールというのは、できた時は真新しいので、お客さんがたくさん訪れて、収益も上がりますが、飽きられてしまうと、それまでです。
つまり、新しさという価値以外、その建築・その場所の価値が見出せなくなってしまう。そういう施設の造り方というのは、環境を破壊し、街も壊してしまう。それは害悪だと思います。
そういう、どことも変わらない均質な場所・空間を造るのではなく、大切なのは、そこに行って“何かをしたい”と思える場所を創出することです。
他とは違う特別な場所、そういう場所性が商業にとっては、すごく大切だと思います。その意味で言えば、僕らは一坪いくらという床というより、場を創ったつもりです。
麻魚さん
場所としての価値を武器にするなら、例えば、全階路面店にしたらいいなと思います。
真宏さん
最近、屋外を上手に使う店が増えてきましたよね。
コロナ禍以降、三密を避けるために、外のスペースを使うようになっています。ヨーロッパの街が絵になるのは、路面のカフェが雰囲気づくりに一役買っているからで、日本の店舗も、外使いがだんだん上手になり、世の中のトレンドにもなっていると思います。
例えばパリやバロセロナのような路面づかいができるようになると、街も、もっと豊かになっていくと思います。
育っていく、まち
―― 今後、FLAPSが、この街の中で、どのように育っていってほしいと思われますか?
麻魚さん
気持ちのいい場所がいろいろあるので、それを見つけて、どんどん利用してほしいですね。普通の施設だと、触ってはいけない、出てはいけない、そういうテラスや屋上が多いですが、ここは、その真逆で、出られる・触れられる、です。
それだからこそ、自分から積極的に動いていく動機も生まれる。
対岸の流山おおたかの森S・Cに足を運ぶ動機づけにもなると思うので、どんどん探検して、いろいろな場所を見つけて、使い倒してほしいと思います。
真宏さん
南口都市広場も含めた施設全体に人が集まってきて、そこに人がたくさんいること自体が、この場所の楽しさをさらに増すような、そういう都市空間ができたら最高ですね。
麻魚さん
この建物だけではなく、このまち全体が心地よい環境になって、みんなが幸せになり、その結果、周りの商業施設も潤うという循環ができたらいいと思います。
真宏さん
さらに、それがお手本になって、いろいろな街にどんどん波及していくと、もっと住みやすい場所が増えていくと思います。
10年後を見据えて
―― このサイトは、SDGs についてみんなで身近なところから考え、サスティナブルなまちづくりにつなげていこうという主旨でスタートしました。
SDGsは2030年までに世界が達成する目標とされており、ちょうど10年が一つのマイルストーンになっていますが、お二人は10年後に向けた目標、抱負はありますか?
麻魚さん
SDGsについては、世界中、地球上全体で、ある程度の達成感は持ちたいという思いはあります。貧富の差や差別、食糧難、飢餓、食料の有効活用など、いろいろありますが、建築でいうと、エネルギー負荷の低減など、できることはたくさんあると思います。
理系の人間からすると、新しい自然エネルギーの開発も実現したいと思うし、そういうことを一つ一つ積み上げて、自分が直接働きかけることのできない分野についても気を配りながら、建築というものを続けていきたいと思います。
例えば、屋上に芝生を敷くだけでも、熱負荷は低減されるし、樹木を植えるだけでも有効に働く。これまでも、そういう思考で建築に取り組んできましたが、SDGsというわかりやすい指標ができたことで、さらに取り組みやすくなりました。そこはすごく嬉しいと思います。説明しやすくなったのは、大きいですね。
真宏さん
10年後に向けて実現できたらいいなと思っていることは、2つあります。
一つは、社会と個人がつながっている状態を創ることができたらいいなということ。
与えられた環境に居させられるのではなく、自ら自分たちの居場所を創っていくという状態、例えば、パブリックとプライベートの間の「コモン」みたいな場所が集まって社会が形成されている、そういう人から地続きで全体が構成されるようなものができたらいいなと思います。
もう一つは、ずっと建築のテーマとしてきたことですが、社会と自然が対立ではなく、自然の理(ことわり)の中に社会の理が組み込まれている状態を、建築で具現化したい。
20世紀は、自然と社会が対立してきたので、次の世紀は、それが一つの輪の中に入ることができたらいいなと思います。果たして10年というスパンでできるかどうかは、ちょっとわかりませんが。
麻魚さん
先日、地球上の人工物と自然物の比率で、人工物の方が上回ったという記事がイギリスの科学誌に掲載されたと報じられていました。
どこからどこまでを自然物と換算しているのかわかりませんが、自然と人工物の対立構造を改めていく必要があります。このまま焼畑をずっと続けていけば、焼く畑すらなくなってしまいます。
私たちの喜びが自然の喜びにもなるような、そういう意識の転換ができるといいなと思います。それが、私たちの潜在的なストレスも減らしてくれるはずで、私たち自身も自然物の一つですし、生き物にとって、気持ちの良い場所というのは、普遍的だと思います。
FLAPSも、そういう場所になっていくのではないかと思っています。