#自然環境にやさしいまちづくり
流山おおたかの森S・C ANNEX2設計 MOUNT FUJI ARCHITECTS STUDIO
原田真宏さん・原田麻魚さんインタビュー
2022年6月30日、B43街区にオープンした「流山おおたかの森S・C ANNEX2」は、食品、雑貨、家具など、日々の暮らしを支える各種店舗を擁する商業施設として、流山おおたかの森の新しい顔となりました。
施設の設計・デザインを手がけたMOUNT FUJI ARCHITECTS STUDIO(マウントフジアーキテクツスタジオ)の原田真宏さん・原田麻魚さんに設計の意図や狙い、また、流山おおたかの森の街づくりと今後について伺いました。

MOUNT FUJI ARCHITECTS STUDIO
原田真宏氏(写真:左)と原田麻魚氏(写真:右)が共同代表を務める設計事務所。
2004年、設立。建築デザインを中心に、都市計画から伝統技術を生かしたプロダクトデザインまで幅広い活動を展開。理念を具現化する「質」の高い建築には定評があり、2017年に日本建築大賞を受賞した「道の駅ましこ」をはじめ、そのほぼすべての作品が国内外で賞を受賞するなど、世界的に高い評価を受けている。
代表作/道のえき ましこ、集合住宅「seto」、教育施設「知立の寺子屋」、宿泊施設「Entô」、公園施設「トナリノ」他
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自然発生的な多様性が生む、 街の魅力
―― 「流山おおたかの森S・C ANNEX2」の開業日は、とても暑い日でしたが、9時前くらいから人が集まり始めて、列が折り返して伸びるほどの盛況ぶりでした。
真宏さん
期待度が高いんですね。「FLAPS」の設計を担当させていただいた時から、この一連のプロジェクトは、普通の商業施設にはない建築デザインが求められていると考えてきました。
今ここは、15年前に何もなかった街なのだろうかというくらいの変貌ぶりです。畑や原っぱの中に電鉄が一本走っているような世界から、たった15年で、こういう街並みができた。通常、こんなに短期間で造られた街というのは、こうはなりません。
もっと画一的で、システム的。例えば、碁盤の目状に道路が整然と引かれ、そこに経済効率性の高い施設が並び、奥行きのない、多様性とは真逆の街ができるのが普通です。
でも、ここは意図せずにできた街というか、自然発生的に生まれた多様性のようなものが魅力です。その多様性をより際立たせ、立体的に膨らませたいという思いで造ったのが「FLAPS」でした。

FLAPS
この街の面白さは、新しい街なのに多様で、みんなにとって顕れ方や見え方が違う、いろいろな想いが重なっているところにある。そういう自然発生的な街みたいな奥行き、複雑さ、思い入れが重なっているような性質を拡大するように街を創れないかと考え、今回のプロジェクトに参加しました。
ヒントは、こち亀
真宏さん
今回は「FLAPS」の時と違って、日常生活を支えるスーパーなどの店舗が入るので、建築にそれほどコストをかけるわけにはいきません。でも、流山おおたかの森らしい街づくりに寄与できる建築の造り方ができないものかと考え、そこでヒントになったのが、漫画の「こち亀」です(笑)。
「こちら葛飾区亀有公園前派出所」のシリーズの中に、“お化け煙突が消えた日”という話があるんですね。煙突が3本に見えたり、2本に見えたり、あるときは1本に見えるという “お化け煙突”が出てくるのですが、こういう「謎」が街にあるというのは、すごくいいことだなと思ったのです。
昔からある街は、そういう不思議を抱えている。“なんだかよくわからないもの”があると、街の奥行きがぐんと増す、そう考えたのです。今回は、いわば箱型の建築を造る必要がありましたが、それでもなるべく、いろいろなところから見た時に、顕れ方が変わるようにし、外壁を銀色と白色の2面で構成しています。

ANNEX2 外観
立面図で見ると、すべて銀色に見える面と、回り込むと白色の建物に見える面があります。大通り沿いの角からだと、銀と白が混ざった建物に見えて、1つの建物でも、4タイプの顕れ方をする。
なので、記憶の中でちょっと複雑なことが起こるような仕掛けになっています。“あれ、銀だっけ?白?いや、銀と白?”というように、一つの世界だけれども、4つの世界が重なり合って、そこに不整合が起こって混乱するということを、単に仕上げを変えるだけで現実化しています。そうすることで、お化け煙突のような謎を街に加えられるのではないかと考えたのです。
色の組み合わせによる、魔法
真宏さん
銀と白という組み合わせは明るくて清潔で、ここに住むファミリー層にも合っていると思うし、予算上の都合からも、銀と白はすべてレギュラー色として既製品で揃います(笑)。
特注色は高くつくので、既製品として選べる色で、しかも効果的ということで銀と白を選び、その組み合わせで顕れ方を変えているところが大きなポイントです。

麻魚さん
大きい通りから見ると、銀と白が見えていて、角のところに大きく「2」と書いてあるのですが、その数字自体も、銀と白を入れ替えています。
この銀と白という色は絶妙で、晴れた日には限りなく同一色に見えて、曇りの日には白と銀のコントラストがぐっと立ち上がる、というように、天気によって見え方の異なる不思議なサインになりました。

真宏さん
晴れていると、影になっているところは、より深く見える程度で、単色の建物に思えますが、曇りの日になると、「お化け」が現れて、異次元の扉が開かれる(笑)。
第2回へつづく