流山おおたかの森S・Cでは、2023年1月より、近距離モビリティ「ウィル」のシェアリングサービスをスタートし、広い施設内を自在に巡りながら買い物ができる移動サービスとして、歩行に不安を抱える方やシニア世代の方をはじめ、誰もが快適に施設内を楽しんでいただける環境を整えています。
ウィルの開発経緯やこだわったポイント、サービスの導入経緯や利用者からの声などについて、WHILL株式会社の杉浦圭祐さんに伺いました。


すべての“行きたい”に応えるために

ーウィルの開発経緯について教えてください。

杉浦さん/ウィルは、長距離の歩行に不安のある方や足の不自由な方をはじめ、あらゆる方を対象に、免許不要で歩道や屋内、建物内を走ることができる歩行領域のモビリティとして開発されました。流山おおたかの森S・Cで稼働している「Model C2」はフラッグシップモデルで、5cmまでの段差を乗り越えられる走破性やサスペンション装備による乗り心地の良さなどが特徴です。


もともと弊社を設立する以前、創業者らが車椅子ユーザーの方とお話をする中で、「100m先のコンビニに行くのをあきらめる」という話を聞き、その方のハードルをなんとか解消できないだろうかと考えたところからウィルの開発はスタートしています。

この言葉には、物理的なハードルに加え、心理的にも、車椅子に乗っていることで、“介助が必要な人”と見られてしまう、その気持ちが外出することに対するバリアとなっていました。ならば、歩行が困難になった人が最後に乗るものではなく、洗練されたデザインで、誰もが乗りたいと思う、これに乗ってどこに行こうか“ワクワク”する、そんなパーソナルモビリティを開発しようと考えました。

デザインはもちろん、直感的に動かせる操作性や段差を乗り越えるタイヤ性能、乗り心地にもこだわりました。2011年の東京モーターショーでコンセプトモデルを発表、2014年に「Model A」という初号機を発売しました。


軽々と段差を乗り越える

ー開発に際して、苦労されたことやチャレンジだったことはありますか?

杉浦さん/開発の鍵となったのが、前輪の「オムニホイール(全方位タイヤ)」です。全方向に移動できる車輪で、弊社で特許を持っている技術ですが、全方向に小回りが効く走行性能と段差を乗り越える走破性を両立した特殊なホイールです。

通常の車両は、曲がる方向にハンドルを切りますが、「オムニホイール」は、タイヤ本体の回転方向に対して垂直方向に10個のローラーを配置し、タイヤの向きを変えなくても、前後左右・斜め方向に移動したり、その場で旋回したりすることができます。

前輪の向きが固定されていて、車椅子やベビーカーのキャスターのようにクルクル回る構造ではないため、方向転換の際に足にタイヤが当たることもありません。車体を斜め方向に動かす場合、接地面のローラーが変わりながら、タイヤの向きは同じままで斜めに移動します。操作レバーを進みたい方向に動かすだけの直感的な操作で、狭い場所での小回りも利きます。


スピードは4段階、最大でも時速6キロメートルです。Model C2はタイヤの形状が大きく太く、後輪にサスペンションを装備しているので、路面からの衝撃や振動を吸収し、乗り心地も快適です。通常の車椅子の場合、タイヤが細いため、砂利道ではタイヤが取られて、押しても動かなくなってしまうこともありますが、ウィルは走行可能です。ウィルに乗ったことで、初めて神社に参拝に行けたと喜んでいる方もいらっしゃいました。

自由に買い物を楽しむ

東神開発/現在、本館1Fのインフォメーションカウンターに設置し、営業終了後に夜間充電を行い、満充電の状態で最長18キロメートル走行できるので、翌朝、開店と同時のご利用で終日稼働できるようになっています。利用者の方からはご好評いただいており、車椅子利用者の方というよりは、日頃、杖を使って歩いている方がご利用されるケースが多いようです。
広い施設内に館が分かれていて、複数のフロアがあるので、すべて歩こうと思うと、かなり体力が必要で、体力や疲れを気にせず館内を回りたいという方がご利用されています。

杉浦さん/実証実験や導入直後の感想でも、「久しぶりに、こんなにゆっくり買い物ができました」という喜びの声がいちばん多くありました。家族と買い物に来ても、「私はベンチに座っているから、行っておいで」と一人で待っているか、車椅子を借りて家族に押してもらうか。でも、待っているだけでは寂しいし、普段、杖をついて歩いている方にとって車椅子は慣れていないし、押す方も戸惑います。まして、買うかどうかわからないのに、店内まで連れていってほしいとはなかなか言いにくい。目的のものだけ買って帰る、いわゆる「目的買い」になりがちです。

でも、ウィルがあれば、「30分後に待ち合わせね」といえば、お互い気兼ねなく買い物できるし、ストレスなく自由に楽しめる、そういう方が多かったようです。

今は、インフォメーションセンターを起点に貸し出しを行う施設が多いのですが、カウンターが建物中央部にある場合、駐車場からカウンターまでが徒歩になるため、その間の移動手段が課題です。駐車場から近い場所に設置されている施設では利用頻度が高いという調査結果からも、設置場所や動線が重要なポイントと考えています。

旅や買い物を楽しむためのツールとして

東神開発/流山市は「子育てするなら、流山。」ということで、若い子育てファミリーが多く住むエリアですが、流山おおたかの森S・Cに寄せられたメールの中に、新居に両親を招いたけれども、家に着くまでが精一杯で、どこにも出かけられなかったと。でも、「流山おおたかの森S・Cにはウィルがあるので、両親と一緒に買い物が楽しめた」という利用者からの声があり、子育て層が暮らす若い街でも、こうしたニーズがあることがわかりました。

杉浦さん/親に「そろそろ車椅子に乗ったら?」というと、「まだ早い!」と怒られるかもしれませんが、ウィルなら、お孫さんから「おじいちゃん、カッコいいから乗って」と言われれば、乗ってしまう(笑)。そういう前向きなアクションにつながる要素をウィルは持っていると思います。

弊社は「すべての人の移動を楽しくスマートにする」をミッションとしており、誰もが当たり前に近距離移動できて、快適かつ自由で楽しい移動というものを実現できる世界を創っていきたいと考えています。

コロナ禍が明けたものの、ずっと家にこもっていたので足腰が弱ったという方が増えていて、旅行会社の調査でも、70代過ぎると、急に旅行に行かなくなるという統計結果が出ています。そういう方たちが、旅先でウィルを使うことで、旅行を楽しめるようになれば、健康寿命も伸びると思います。
誰もが気軽に外出できる、買い物に行ける、旅行に行ける、そういう社会になってほしいと願っています。

―ありがとうございました。