音楽を使った空間やプロダクトデザイン

―本日は、流山おおたかの森S・C FLAPSのテラス音楽「Songs for流山おおたかの森S・C FLAPS」を手がけた音楽レーベル「Vegetable Record」のお二人をお招きし、活動テーマやテラス音楽のコンセプト、音楽に対する想いなどについて伺いたいと思います。よろしくお願いします。
Vegetable Recordの林翔太郎さん(写真左)、三上僚太さん(写真右)

三上/音楽レーベルといっても、僕たち二人だけで活動しているので、音楽ユニットのようなイメージが近いかもしれません。音楽の新しい楽しみ方・新しい価値観を創ることをコンセプトに活動していますが、大切にしているポイントがあります。

あらゆる対象をCDやカセット、レコードと同じ音楽メディアと捉え、アート、デザイン、エンターテインメントなどの領域を横断しながら、作品を発表している点です。

制作テーマとしては、現代アートに「サイトスペシフィック・アート」(※特定の場所で、その場の特性を活かして表現されたアート)というのがありますが、例えば、直島に行かなければ見られない作品、ある期間だけ発表されている作品と同様、その場所・時間ならではのユニークなポイントを活かした音楽を「サイトスペシフィック・ミュージック」と呼び、そこを目指して音楽活動に取り組んでいます。なかでも最近、力を入れているのが「音楽を使ったデザイン」という概念です。

グラフィック、テキスタイル、ロゴ、建築、照明、ファッション、インテリア、プロダクト、音(サウンド)、Webなど、さまざまなデザインを目にしますが、「音楽(ミュージック)」はデザインの文脈で語られることがまだまだ少ないように感じています。

僕たちは商業空間やプロダクトなど、あらゆる対象を、CDなどと同じ「音楽のメディア」のひとつとして捉え、空間やプロダクトに対して音楽作品をリリースするように「音楽を使った空間デザイン」「音楽を使ったプロダクトデザイン」などを手がけています。そして、空間やものを構成する重要なデザイン要素として楽曲を捉えた、機能的で美しい音楽を追求しています。そういった取り組みの延長線上に、FLAPSのテラス音楽があります。


音楽レーベルとして

林/2013年に、二人で始めたユニットが「ベジタブルズ」で、その時に「ベジタブルレコード」というレーベルがあったら面白いよね、という軽いノリでレーベルを作りました。お互い、ソロ活動もしていたので、ソロのアーティストとベジタブルズが属するベジタブルレコードという形で活動しています。

三上/僕と林が出会ったのは、20歳くらいのころなので、10年ちょっとの付き合いですね。それまでの10代は、中2からギターを始めてハードロックバンドをやってました。なので、出自というと基本はJ-POPやハードロック。ロック以外のクラシックやジャズなどを聴き始めたのはバンドを解散した後、ちょうど林と出会ったあたりからなんです。

林/僕は、ずっとテニスをやっていて、その推薦で農業系の大学に入り、造園を学びました。その頃からロックバンドを始めてのめり込み、当時のバンドのドラマーが以前は三上と組んでいたことから知り合いました。

CDや配信を通じて作品をリリースしていく中で、音楽に興味のある人以外の人たちに聴いてもらうには、CD以外音楽メディアにして届けたら、聴く人たちが広がるのではないかと考え、知り合いのビール屋さんと珈琲屋さんにお願いして、2017年に音楽付きのビールやコーヒーの作品を出したのがきっかけで、そのころから本格的にベジタブルレコードとして活動しています。
Craft Beer Bottle Series」音楽ダウンロードコード付きビール。 Vegetable Record 公式ウェブサイトより
「Roasted Coffee Series」音楽ダウンロードコード付きコーヒー豆。 Vegetable Record 公式ウェブサイトより

最初は自分たちのソロ作品の音楽メディアとしてビールやコーヒー豆を使って、購入すると、その瓶や包装紙に音楽アルバムのQRコードやダウンロードコードがついていて聴けるというものです。

三上/音楽付きビールや音楽付きコーヒー豆の時は、CDの代わりにビールやコーヒーを使うという発想でしたが、デザインの文脈では考えていませんでした。最初から今のような考えだったわけではなく、試行錯誤を繰り返す中で、自分たちでも予想していなかったところに辿り着いた感じです。

林/その後、2018年に上野の「NOHGA HOTEL UENO」で個室トイレ内にオリジナルの音楽が流れる空間音楽を手がけ、そのあたりから少しずつ音楽を使ったデザインとしてオファーが来るようになりました。


三上/このころから、空間も音楽メディアではないかと考え、そうなるとすべてがメディアになりうるし、デザインの文脈で音楽を考えることができると気づきました。

林/もともと「ベジタブル」という名前に深い理由があったわけではなく、言葉の響きで決めたものですが、ラテン語では、"他のものに活力を与える"という意味があり、そこから考えると、僕らの空間デザインの音楽もその場所と共存する感じなので、意図せず、名前に活動が近づいてきた感じがします。

予期せぬことを受け入れて完成する、テラス音楽

三上/FLAPSのテラス音楽は、二人で一緒にスタジオで曲づくりをするのではなく、キー(ハ長調などの調)だけ決めて、それぞれつくった曲を持ち寄り、ぶつかるところがあれば調整しますが、基本、その偶然性も含めて曲にしています。


天井スピーカーから流れている曲もそういう作り方で、各フロアの植栽帯から流れる曲は、僕が2、3、4階、林がそれ以外の階を担当し、それぞれが空間の中で渾然一体となって曲になるものです。曲づくりに関しては、FLAPSの建物形状から着想を得て、個人的には、山を登っていくと、フロアごとに生息している生き物たちがいるような、各階が有機的につながるイメージです。

林/最初にこの場所を案内していただいた時は、竣工前だったので、周辺を散策しながらリサーチしました。10分くらい歩くと、原生林に近い山がいっぱいあって、駅周辺には都市的な商業空間がある。その自然と都市が共存する中に、街全体のデザインがシームレスに続いているのが印象的で、しっかりとデザインされているからこそ、それが活きているのを感じました。テラス音楽も意図しない形で音が外に流れるので、その場に溶け込むような自然な音づくりを目指しました。

三上/FLAPSのテラス音楽を通して気づいたのは、こうした公共空間が、大衆音楽みたいなものになりうるのではないかという考えです。大衆音楽というのは、多くの人がいいと思うもので、CDなら、数多く売れれば、大衆的にヒットしていることになります。

公共空間も、不特定多数の人が同時にいる場所と考えると、その状況の中で創造的なもの、面白いものを創って多くの人に愛着を持ってもらえるようになれば、音楽のメディアとして機能しているのではないかと思います。

FLAPSのテラス音楽は、僕たちも予想しなかったことですが、駅を降りてくると、この場所がコロッセオのようなすり鉢状で、音が反響しやすい造りになっているため、FLAPSの対面側の階段あたりでテラス音楽が聴こえることもあります。その距離まで届いていることに気を配りつつ、いかに、この空間を活かすかが曲づくりに求められます。

いろいろなところから反射して聞こえてくる曲に、鳥の声や風の音、電車の音といったさまざまな音が混ざり合うことで環境に溶け込み、実際にそこで鳴っているスピーカーから流れている音なのか、自然に流れている音なのか、判別できなくなります。そうなると、室外機の音や子供が走る“タッタッタタ”という駆け足の音も音楽に聴こえるかもしれないし、周りの騒音やノイズすらも音楽に聴こえるかもしれない。

そうやって現実音を取り込むことで曲が完成するということは、音楽家としてはすごく興味深いですし、今後も追求していきたいテーマのひとつです。

生き物みたいな音楽として進化していく

林/ワークショプは昨年に引き続き、FLAPSの音楽を参加者と一緒に作るというコンセプトで、FLAPSのテラスを「大きな楽器」と捉えて、叩いたり擦ったり、いろいろな音を出すことで音集めをしています。子供たちは毎回、意外な着眼点で音を出したり、拾ったりしてくるので、驚きや発見があります。

録ってきた音を絵や言葉で表現する取り組みも行っていますが、歩いている音を録ってきた子が、クレヨンで点を描いて歩いている音を表現していて、すごいなと思いました。「ドン、ガラガラガラ」と音を文字で表現している子は、「ドン」を大きな文字、遠くで聞こえる「ガラガラ」は小さい文字にして、音のメリハリを文字の大きさで表現するなど、子供たちの発想の面白さを実感します。

三上/もともとFLAPSの担当者の方と“生き物みたいな音楽ができたらいいですね”という話があって、新陳代謝みたいにどんどん変わっていく音楽という発想が起点となり、ワークショップで集めた音を使って、テラス音楽をアップデートすることにつながりました。

地続きの地平で

―ライブでは、広場のステージの上ではなく、地面にシートを敷いて、その周りで子供たちが走り回り、楽器に触れるくらいの距離感で演奏されているのが印象的でした。

林/ステージに立つと、どうしても“演奏者と聞く人”という境界が生まれてしまうような気がします。僕らの音楽は、もっとどんな人でも聞くことができて、近くまで寄れる、何なら、一緒にその場で演奏に参加できるような近さ、フラットさで演奏したい。演奏しているのかどうかもわからない空間に存在する音楽として、誰でも楽しんでもらえる、そんな空気感、希薄さがいいと思っています。

三上/お子さんの方が自然と受け入れていますね。目の前で楽しそうなことがあるから近くに寄ってくる。予期せぬものを楽しもうという感覚があります。

林/日本庭園に「回遊式庭園」というのがあり、園内をまわりながら鑑賞する庭園形式ですが、そこから着想し、演者を横一列ではなく、いろいろなところに配置し、観客がその間を移動しながら、演奏を聴くようなライブができないかと考え、回遊式ライブという形式にしています。歩くことで、音楽の聞こえ方が変わり、音楽の景色、シーケンスが変わっていく。これはFLAPSのテラス音楽にも活かされています。

三上/自宅の近所に好きな川があるのですが、そこを歩いていると、鳥の声が聞こえたり、カエルが鳴いていたりしています。でも、彼らは口裏を合わせて鳴いているわけではないし(笑)、それぞれが独立していますが、一定の繰り返しがあって、それが渾然一体となって空間の音楽として調和している。ああ、こういうことかと思い、FLAPSの音楽にも活かされています。

その場所で、音楽を体験するということ

林/究極の理想型は、もともとその場所にあったかの如く、そこに存在していたと感じられる音楽を作ることです。伊勢市の取り組みでも、昔からそこにあったような、でも、気づく人もいれば気づかない人もいて、気づくと面白いと感じられる、その場に馴染んだ音楽を目指しました。


三上/例えば海外の有名レストランのように、その場所まで行かないと体験できないというものがあります。僕らもApple musicやSpotifyで音楽を公開しているので、もちろん色々なシチュエーションで聴いていただきたいのですが、やはりFLAPSという実際の場で、「Songs for流山おおたかの森S・C FLAPS」を聴くと、この曲の持っているポテンシャルが引き出され、より音楽としての真価が発揮されると思います。

理想とする音楽

林/やはり、もともとそこにあったかような音楽というのが理想ですね。それと、街の人たちが愛着を持っている、ある意味のソウルミュージック。例えば、僕が小さい頃に行っていたスーパーマーケットで流れていたテーマ音楽を、今も何となく覚えていますが、そういう耳馴染んだ音楽のように、FLAPSのテラス音楽も、愛着を覚えるものになってくれたら嬉しいですね。

三上/二人とも、新しいもの、面白いものを作りたいという想いがあるので、創造性を持って作りたい。最も創造性が高い状態を考えると、自分たち以外の意見や予期せぬ要素を取り込みながら、誰が聴いても親しみやすく、それでいて創造性が高い音楽が実現できたら、すごく嬉しい。生涯、到達できるかどうかわかりませんが、そこを目指したいですね。

林/敢えて制約を楽しむというか、建物や施設によってコンセプトや場所性、流せる時間帯、範囲は違うので、それも含めた音楽づくりが、面白いものにつながることがあるので、何でも楽しむことでしょうか。

林/今の延長線上で、もっと違うメディアにも広げて、街全体、あるいは図書館や区役所、病院などの公共施設なども音楽のメディアにしてみたい。あと、オリジナルのスピーカー、例えば、晴れの日、雨の日と天気に応じて自動で音楽が変わるようなスピーカーをつくってみたいですね。

三上/僕は遊具が好きなので、「音楽が出る遊具」。大きなボールにスピーカーを組み込んで、みんなで遊ぶと音楽ができるようなものを公共空間でできたら面白いなと思います。あとは伝統的な行事に音楽をプラスすること、例えば、灯籠流しから音楽が聞こえてきたら、どんな感じになるのか。今はいろいろな技術があるので、新しい音楽の楽しみ方ができるようになると、いろいろ妄想しています(笑)。

―ありがとうございました。