価値あるスキルを持っていても、一人の力では限界があるところに継続的な活躍の場と機会を提供し、スキルを必要としている人とつなぐ、スキルのセレクトショップ「mikke!」。

こかげテラスに店舗を構え、スキルを持つ女性たちの活動をサポートするmikke!代表の佐々木みのりさんとmikke!を拠点に活動を展開する皆さんにお話を伺いました。

左から、仲田さん、荒木さん、佐々木さん、まえださん、みうらさん

スキルとニーズをつなぐ場として

―まず、mikke!の設立主旨についてお聞かせください。

佐々木 : 活動を開始したのは、2017年1月からで、お店を構えるまでは、キャラバン隊のように、イベントスペースを借りながら活動していました。世の中には価値あるスキルを持っている人はたくさんいますが、女性の場合、結婚や出産、育児など、人生の節目節目で、さまざまな理由から活動を続けられなくなる場合が多く、また継続できたとしても、時間的な制約があったり、一人で活動を続けることに限界を感じていたりする人もいます。

一方で、そうしたスキルを必要としている人たちもいて、スキルを持つ人とそれを必要とする人が出会う機会や場所というものがありませんでした。それに気づき、スキルとニーズを適切につなぐことをコンセプトに、継続的に活動できる場を創ろうと考えたのが、mikke!を始めたきっかけです。2018年のこかげテラスのオープンを機に店舗を構え、多彩なジャンルのスキルを持った人が集まって、協力しながら活動する“スキルのセレクトショップ”として、今に至っています。

mikke! 代表/佐々木みのりさん

―mikke!のメンバーの方はどのように活動されているのでしょうか?

佐々木 : mikke!プロメイト(以下、プロメイト)と呼ばれるメンバーは登録制で、さまざまなジャンルの方が集まっています。彼らを囲い込むわけではなく、活動拠点の一つとして、それぞれの都合に応じて利用してほしいと考えています。基本的には講座やワークショップ、施術など、自分に合った形でスキルを披露し、お客様にファンになっていただき、この人に習いたい、オーダーしたいといわれるところを目指します。

スキルは多彩ですが、ここでの活動が最終型ではなく、あくまでもmikke!を足掛かりに、いろいろなつながりをつくりながら、活動の幅を広げてほしいので、その意味では、プレゼンテーションの場ともいえます。

―mikke!というネーミングの由来について教えてください。

佐々木 : ここを利用するのは、活動拠点としているプロメイトの方と、そのワークショップや講座に参加される一般のお客様です。一般のお客様にとっては、自分が求めているスキルと出会える場であり、プロメイトの方にとっては、お客様と出会う場所、あるいは一緒に活動する仲間を見つける交流の場。そういうみんなが何かを“見つけられる”場所であってほしいという願いを込めて、「mikke!(みっけ!)」という名前にしました。


mikke!の活動を通じて、得たもの

―プロメイトの皆さんに、それぞれの活動内容と、mikke!での活動を通じて、どのような変化があったのかについてお聞かせください。

荒木 : 私は“木”が好きで、木工クリエイターとしてレーザーカッターを使った作品づくりをしています。mikke!では、木を素材としたワークショップを実施しています。

木工クリエイター/荒木幸恵さん(snowsugar1228

佐々木 : 荒木さんは、mikke!の仲間たちからすごく頼られていて、こういうものがほしいと相談すると、どんな要望でも、ぴったりのものを作ってくれます。世の中に売っていないもので、ほしいものを実現してくれるという意味で、ニーズとスキルがしっかり紐づいている理想的なクリエイターです。

荒木 : 作品を収めるケースやイベントで使う什器、作品を飾る棚などのオーダーをいただきますが、まずイメージを聞いて、それを数値化、図面化し、ミリ単位でサイズを合わせながら、具体的な形にしていきます。最初はできるかどうか不安ですが、ある瞬間、ぱっと閃いて、一気に仕上げます。

難題をクリアして、モノができた時がいちばんの喜びです。そのハードルが高ければ高いほど、やる気が出ます。自分のスキルを役立ててもらえるのが、何よりのやりがい。レーザーカッターという工作機械に出会えたのがいちばん大きいと思っています。工業用の大型機械なので、自分で所有するわけにはいかず、施設でレーザーカッターを借りてモノづくりに励んでいます。この機械をどうしても使いたくて、「Adobe Illustrator」というデザインソフトを一から勉強しました。

テーブルデザイナー/みうらひろこさん(テーブルデザイン教室 くらしって

みうら : 私は、大学で食品分野を学び、就職後は企業で食品の企画開発に携わっていましたが、なかなか自分の思うようなことができず、勉強して手に職をつけたいと思い、テーブルコーディネートの資格を取り、自分で表現をすることに夢中になりました。

今は、テーブルコーディネートの教室を開いていますが、毎月定例で開催する本格的なコースだと、なかなかハードルが高いので、1日講座などを通じて、季節の空間づくりやテーブルセッティングなど、より多くの方に気軽に食卓を彩る楽しさを知ってほしいと思い、mikke!に参加しました。

桃の節句や端午の節句など「ハレの日」の煌びやかなテーブルセッティングから日々の暮らしの心温まる配膳、テーブルマナー、日本人にとって大切な箸文化の啓蒙といったテーマで講座を開いています。

羊毛フェルト作家/仲田亜由美さん(White Rosa

仲田 : 私は、羊毛フェルト作家として活動しています。羊毛フェルトは、フェルティングニードルという特殊な針を使って、根気よく刺すことで自由に造形することができます。もともと食をテーマに、スイーツやパンを専門とした作品づくりをしていましたが、mikke!の講座の生徒さんからの要望で、飛行機や生き物などを手がけるようになり、作品の幅が広がりました。

子どものおもちゃや雑貨など、他分野のプロメイトさんとのコラボが実現し、お客様の年齢層が広がったことで、いろいろな世代の方からリクエストをいただくようになりました。

依頼があれば、とにかくやってみることで表現の可能性が広がったと思います。作りたいものを一から作るとなると数時間かかりますが、お子さんが参加する講座の場合は、ベース部分をあらかじめ用意し、デコレーションだけ一緒に作り、30分程度で仕上がる工程にするなど、またやってみたい、違うものも作ってみたいと思ってもらえるよう工夫しています。

タイルアーティスト/まえだゆきえさん(onn

まえだ : タイルアート、ポーセラーツ、ベネチアンガラスの3種類を手がけています。食器にシールを貼って焼き付けるポーセラーツは、焼付作業のためにお皿を持ち帰らなければならず、もう少し手軽にできるタイルクラフトを始めました。mikke!に参加した当初は、あまり知られていなくて、種類が豊富で楽しいタイルの世界を、もっとみんなに知ってもらいたいという思いで地道に活動を続けていました。

最初は一人でイベントやワークショップを行っていましたが、他の方と知り合い、ペアで活動するようになったことで、自分が前面に立つだけでなく、アシストすることにも価値を感じるようになり、人と関わることで自分が成長できたと思います。

佐々木 : たまたま隣で出展していた人同士が、いろいろ話すうちに、実はお互いに相性のいい内容だとわかり、一緒に活動することによって、mikke!でしか体験できない新しいかたちのワークショップが生まれるなど、この場所で化学反応が起こり、新しい可能性につながっています。意図的というより、自然発生的なものです。

まえだ : 私は“食”に関連する作品をつくることが多いのですが、実際に使う場面については詳しくないので、作品づくりで終わっていました。みうらさんと出会って、一緒にワークショップをすることで、その先にも視野が広がり、自分にとっても学ぶことが多かったと思います。

みうら : mikke!の勉強会の時に、この仕事を始めたきっかけや目標、やりたいこと、困っていることなどを共有し合う機会があり、お互い、何か一緒にできそうだなと感じて、協力してワークショップする流れになったと思います。

佐々木 : 勉強会というのは、それぞれが活動を広げていくための情報発信として、InstagramやYouTubeなどのノウハウを共有したり、プロとして活動する上で必要なお金の知識を学んだりする機会として開催しているものですが、こうした場を通じてプロメイト同士が知り合い、新しい活動が生まれるきっかけにもなっています。


成長の場として

―活動を続ける中で、見えてくるものというのはありますか?

佐々木 : 長く続けている方ほど、確実に成長し、進化する瞬間があると感じています。当初は自分が提供したいと思う内容を中心にワークショップを組み立てる方が多いのですが、お客様の目線に立って考えないと、なかなかニーズにフィットするものは提供できません。お客様目線で内容を設計し直すというのは、活動を継続していないと見えてこないし、できないことですが、お客様のニーズを考えないと、自分自身も成長しません。

長く続けることで、いろいろなつながりが生まれ、他の人の活動を見ることで、こういうやり方もあるのか、こんな変化があるんだという気づきがあり、その試行錯誤の中から、その人なりの価値が生まれ、進化していく。最終的には一人でどこへ行ってもお客様がついてくる、そういう職業人としての関係性が築ける人になってほしいというのが私の考えるゴールで、そういう人が一人でも増えてほしいと願いつつ、日々活動しています。

―SDGsについては、どのように捉えていらっしゃいますか?

佐々木 : 特にSDGsを意識して活動をしてきたということはないのですが、結果的にそういう方向に進んできたのかなとは思います。女性は男性に比べて、自分のスキルを生かして仕事をしようとする場合、いろいろな意味でハードルがあると思います。でも、mikke!での活動を通じてお客様とつながる体験を重ね、やりたいことや仕事としての軸がしっかり形作られていくことで、最終的に一人一人が経済的にも自立した女性として活躍できるようになっているし、そういう人が増えてほしいと願っています。

―皆さん、それぞれ10年後の目標についてお聞かせください。

荒木 : 誰にも言っていないのですが、息子が大工をしているので、彼が独立した時に、自分も手伝いつつ、会社の片隅に作業場を造ってもらい、そこでモノづくりをしながら、ワークショップを開きたいという夢を持っています。

みうら : この街に住む人たちにとって、テーブルコーディネートの垣根が低くなって、どの家庭でも、さっとテーブルセッティングができる、そんな街になってほしいなと思います。そのためにも、テーブルコーディネートの手軽なノウハウや楽しさというものを伝えていければと思います。

仲田 : 羊毛フェルトは楽しいし、お子さんからお年寄りまで楽しめます。気軽に参加していただいて、羊毛フェルトの楽しさ、奥深さを体験してほしいと思います。そして、私が本を出した暁には、出版記念のワークショップをやらせていただけたらいいなと思っています(笑)。

まえだ : もっともっと多くの人にタイルのことを知っていただきたいし、私自身がもっと成長して、どこへ行っても、私に仕事を頼みたいといってもらえるように、しっかり活動を続けていきたいと思います。

佐々木 : mikke!としての活動を継続していくことが、第一です。今は、こかげテラスにテナントとして入っていることで、このエリアに住むいろいろな人に知っていただく機会が増えていると思いますが、それをもっと広げて、どこへ行っても、「mikke!」ブランドとして、“あそこで活動すると、いろいろ可能性が広がるよね”と思ってもらえるような存在になれたらと思っています。


―本日は、どうもありがとうございました。