本館1Fベビー休憩室リニューアル
設計担当者インタビュー

流山おおたかの森S・C本館1Fの中央階段通路のベビー休憩室がリニューアルとなりました。今回、設計を担当された株式会社バウハウス丸栄の鳥居 麻由子さんと山口 亜紗美さんに、設計のコンセプトや留意点、こだわったポイントなどについてお話を伺いました。
鳥居 麻由子さん (写真左)、山口 亜紗美さん(写真右)

とまり木のような空間

ーリニューアルに際して、留意された点について教えてください。

鳥居さん/流山は打ち合わせに来るたびに、いつも駅前の広場で子供たちが走り回っていて、今までこんな駅前の光景を見たことがなかったので、こういう街で子供を育てたいなと思いました。初めて来られた方でも、子育てしやすい街だというのは一目瞭然で、引っ越してきても、明るく迎え入れてくれそうな雰囲気があり、地域全体で子育てをしている感じがしました。
今回のプランづくりでは、そうした流山に対する印象を踏まえ、どういう提案がこの街の利用者に響くのかを考えました。私たちは二人とも子育て経験がなく、授乳室の設計も初めての経験でしたので、社内の設計経験者やパパ・ママの方に聞き取りし、流山市の方を対象としたアンケートや口コミなどを参考にしながら、流山市の子育てに関する方針などを調べて、プランづくりを進めました。
鳥居さん

山口さん/今回のリニューアルでは、ショッピングセンターの運営を行っている東神開発様からの
①多種多様な子育てニーズを顕在化し、流山の子育て世代が長く利用できる場所を目指したい
②子育て世代や流山市民を巻き込んだコミュニティの場を提供し、子育てに寄り添う授乳室を実現したい
という2点のご要望を踏まえ、空間構成、内装デザイン、サイン設計、備品設定を進めました。

山口さん


まず、流山おおたかの森S・C全体を“森”になぞらえ、そこに立ち並ぶ多くのショップという“木々”を抜けると、“とまり木”のようなひと息つける空間が広がるという設定で、『ほっと一息“森のとまり木”からはじまる子育てのつながり』というコンセプトを考えました。また、施設名称を「とまり木」につながるぬけ道という意味合いで『こもれびのぬけみち』と名付けました。

こもれびのぬけみち


鳥居さん/施設のアプローチとなるお客様通路は、リニューアル前は黒い壁面でモノトーンのシックな印象でした。今回、“ぬけみち”を感じられる意匠として木素材を使用し、壁面デザインや照明計画で、明るく温かみのある立ち寄りやすい雰囲気をめざしたので、以前とかなり変わった印象を持っていただけると思います。


コミュニケーションの場として

鳥居さん/リニューアル前は、おむつ替えと授乳・調乳という2つの機能が同じスペースにありました。しかし、授乳という“食事”、おむつ替えという“トイレ”の機能を同じ部屋で行うことに対して、食事をしている横でオムツ替えをしづらいという声があったことから、ベビー休憩室としてまとまっていた機能を「おむつ替え室」と「授乳・調乳室」に分散し、それらをつなぐ共有の場として「とまり木エリア」を設けました。
エリアゾーニング ※当初プラン
とまり木エリア

山口さん/「とまり木エリア」は、赤ちゃんも大人もほっと一息つける“とまり木”というコンセプトを体現した場所で、遊具で遊んだり、絵本を読んだりする休憩スペースであると同時に、ここで出会った人が気軽に子育てのことを話し合えるようなコミュニケーションが生まれる場所として設計しています。地域全体で子育てできる流山という街だからこそ、子育てに関わるパパ・ママだけでなく、いろいろな人にとってのコミュニティスペースとして利用してほしいという願いを込めています。

鳥居さん/当初の提案では、お客様通路から3室ある個別の授乳・調乳室にそれぞれ入口を設ける計画でしたが、ご利用いただいているお客様のアンケート結果では、ベビー休憩室は男女兼用でよいという声が多かったため、部屋をまとめ、授乳・調乳室の入口を一つにする方向で考えました。一般的には、ママが授乳している間、パパは外で待つケースが多いのですが、施設内を見ても、パパが一緒に行動する家族が多く、流山という地域だからこそ、パパも一緒に入ることを想定したレイアウトにしています。

東神開発/実際、リニューアル後にご利用いただく男性の姿も増えています。また、遊んだり、絵本を読んだりするために「とまり木エリア」を目がけてくるお子様もいらっしゃるようになりました。皆さん、徐々に使い慣れてきていると思います。

ベビーカーで入れるメリット

鳥居さん/今回、いちばん苦労したのが配置計画です。大型のベビーカーが通れる通路幅を確保しつつ、多様な使い方ができるよう、食事、おむつ替え、授乳など、利用時の行動パターンをシミュレーションしながら、回遊性の向上も考慮しました。
授乳・調乳室

山口さん/双子用ベビーカーの利用が増えていることから、限られたスペースの中でも対応できるように、個別の授乳・調乳室の1室は扉の仕様を変えて、双子用ベビーカーが入れる広さを確保しました。また、おむつ替え室についても双子用ベビーカーが十分に置くことができるスペースを設けています。

東神開発/お客様からのアンケートでも、スペースが狭いとベビーカーを置いて入らなければならないので不便という声が多かったので、マザーバッグをベビーカーにかけたまま個別の授乳室に入れる点は、大きなメリットになっていると思います。

子育て情報発信の場

山口さん/個別の授乳・調乳室は、周りの目を気にせず、ゆっくり利用できるようにすべて鍵付きの個室にし、調乳のみ利用されるお客様には、専用スペースを配置しています。おむつ替え室は、おむつ替えベッドの配置にも気を配り、なるべく広く使えるようなレイアウトで、つかまり立ちできるお子様用のおむつ替え台も備えました。
おむつ替え室

東神開発/お客様のアンケートで、近隣で遊べる場所や子育てセミナー・予防接種などの情報が欲しいという声が多くあったので、流山市の子育て情報を発信できないかと考え、流山市役所の子ども家庭課にご協力いただき、保育園や児童施設のイベント情報も各個室やおむつ替え室の前に掲示し、毎月発信しています。

鳥居さん/なかなか情報収集の時間が取れないママにとって、効率的に情報をキャッチできる場にもなると思います。
情報発信ボード

安心と使いやすさのために

鳥居さん/授乳・調乳室はスペースが限られているため、入室前に利用状況がわかれば、ベビーカーで戻る手間がなく、とまり木エリアで待つことができ、入りづらい方にとっても中の様子がわかって、安心感につながると考え、「混雑状況ボード」を導入しました。鍵の開閉をセンサーが感知して満空室の状況が表示されます。実際、満室ランプが点灯していても、根気強く待つ人が多いと感じました。他の階にも授乳室はありますが、やはり清潔感、使いやすさが大事だと思いました。
混雑状況ボード

山口さん/表示やグラフィックについても、見やすくわかりやすく、そして、お子様連れではない方が入らないよう、プライバシーを表現するのに試行錯誤しました。とまり木エリアの天井照明にも気を配り、肩車をしたお子様が手を伸ばして触ったとしても安全なものを使用しています。 

鳥居さん/すべてのエリアに掲示しているサインの表示は、実際の大きさでサンプルをつくって現場で貼ってみて、どういう距離感で見えるのか、文字の大きさやサインを設置する高さについても、何度も検証しましたね。

東神開発/これほど細部まで打ち合わせを重ね、備品一つにしても、いろいろご提案いただき、きめ細かくプランづくりに取り組んだ経験は初めてでした。自分が子育てをしていると、今までと違う視点で街や施設を見るようになります。授乳室がきれいで使いやすい施設だと、授乳室を目的にして、そこに行くと妻が話していましたが、確かにそうだなと、今回のリニューアルを通じて実感しました。

山口さん/ここでお子様同士が遊んだり、お母様たちのコミュニケーションが生まれたり、そこにさまざまな年齢層の方が関わって、新しい会話が生まれたり、とまり木エリアがあることで、いろいろな出会いが生まれるといいなと思います。

鳥居さん/おむつ替えや授乳を単に効率的に済ますための場所ではなく、とまり木エリアで過ごす時間が少し豊かになったり、気持ちが穏やかになったり、そういう子育ての合間の安らぎにつながる場所になってほしいなと思います。

―ありがとうございました。